理解りみ深し君

理解りみの深いブログ

【小説】ミーティン【SS】

彼女達はミーティンと呼ばれていた。

毎年1月1日に5台の新作機種が発表される、世界中の10代にして成功し、メディアに露出されている女性をモデルとして製作される少女型アンドロイド、通称ミーティン。

女優、俳優、歌手、モデル、アイドル、中にはアニメーションキャラクターなど。ありとあらゆる、男たちが誇大な偶像として奉る高嶺の華を、実物そっくりな高再現度のロボットとして大量生産される。

演技や歌やダンスなどのパフォーマンスから言動まで、本人よりも本人らしく再現されており、加えて学習能力が高く、パフォーマンス面ではレッスンすれば本人以上の力量を発揮し、性格も生活環境の中で同棲者のストレスが無くなる様に変化する。

やれやれ、これでは再現された当人は形無しである。

・・・と、思いきや、人気がそこそこ出れば、一生遊んでも使い切れないほどの大金が収入として渡されるだけあって、アンドロイド化のオファーがあった女性達は断る方が少ないという。そして、不思議か、当然か、決まってオファーを受けた女性達はメディアから姿を消した。

ミーティンが出回りだした頃は「高値の華」、「変態金持ちの為の高性能ラブドール」なんて、揶揄されていたものの、型落ちとなった中古、在庫品がある程度低値で出回りだすと、寂しさを紛らわす為に購入されていたペットの上位相互として広く出回り、偏見的な見方をする人間は徐々に減っていった。

世界にミーティンが浸透されていく中で、当然、ミーティンに纏わる様々なビジネスが生まれていった。

その青年は、若くしてミーティンの廃棄処分業者として、小さな企業を立ち上げた。実家の敷地内に事務所と簡易な整備施設、倉庫を建てて、自分の苗字を織り交ぜた社名の看板を事務所の玄関に掲げた。

彼は父親の出張の影響で、10代の後半をミーティンの発祥の地であるドイツで過ごしている。

当然、ドイツ語は話せず、彼は学業はおろか、生活さえまともに送れなくなり、やがて部屋に引きこもるようになった。当初は半年で父親の出張期間が終わる予定だったにも係わらず、トラブルが続き、引き伸ばし、引き伸ばしとなっていき、それでも彼の母親は彼に「もう少しの辛抱だから」と、部屋の扉越しに優しい声色で呼びかけたという。

彼は、その声に幾度と無く殺意を覚え、やがて、その声を聞くたびに部屋の扉に物を激しく投げつけるようになった。

そんな、彼にとって地獄のような日々が続く中である日、彼は見知らぬ声に名前を呼ばれた。

「なに」

「こんにちは、はじめまして。私はゆいなです。唯一の名と書いて、ゆいなと読みます。良い名前でしょう?」

「ゆいなさん? アンタ、誰」

「ゆいなは・・・、あっと、私は、あなたの為の人形です。貴方の心を癒すために、私はここに来ました。この扉を開けてもいいですか」

「・・・・・・」

彼が別に了承した訳でもないのに、彼の部屋の扉は呆気なく開かれた。

部屋に訪れた小柄な少女のあまりの美しさに、彼は開いた口が塞がらなかった。

「こんにちは、はじめまして、貴方とこれからここで住まわせて頂きます。不束者ですが、どうぞよろしくお願いしますね」

そう言って、彼女は彼の母国の多くの男たちを魅了した笑顔を、彼に向けた。彼女の笑顔に当時の青年は理由の分からない涙を流した。

その日の夕飯が運ばれるとき、彼の母親が「彼女は私の代わりよ」と、ゆいなを自分が購入したものだと彼に知らせた。その翌日に母親は彼の前から、姿を消した。

それから彼は10年の間、ゆいなと生活を共にした。

市販のミーティンは人間から性的干渉を受けられない。衣服を脱がそうとすれば、大音量の警告音が流れる。口付けも同様である。もちろん、改造してそういった事がしたい層にサービスを提供するビジネスも存在はするが。

彼は、年頃の少年らしくゆいなを性的対象に勿論、当然のごとく見ていた。しかし、ミーティンの仕様上10年間で構築されたその関係性は実に初心でプラトニックなものに成らざるを得なかった。

彼はゆいなから、性的なこと以外の様々な事柄を教わった。料理や洗濯などの家事や、学勉、生活に最低限必要となるドイツ語、コンピューター技術。加えて、ダンスや歌のレッスンまで施してもらった。

彼が失敗をする度に、ゆいなは彼が落ち込む瞬間も与える間もなく、彼の失敗を笑って、慰めた。

青年にとってゆいなは、母親であり、教諭であり、友達であり、想い人であった。

ゆいなの充電中に見せる数時間の寝顔を見るたびに彼は隠れて泣いていた。

それは、何故か、彼女が故障してしまってから、2年が経つ今となっても、彼には分からない。

彼は、ゆいなが動かなくなってしまった日に、初めて彼女を抱きしめて、キスをした。

その冷たさと、感触が、元々だったのか、そうでないのかも、彼には分からない。